鼠径ヘルニア
~身体に負担の少ない腹腔鏡手術とは~

鼠径ヘルニアについて

本来腹部に存在すべき臓器や組織が鼠径部(足の付け根部分)の組織の間から皮膚の下に飛び出してしまうことで、鼠径部の膨らみとして認識される疾患を鼠径ヘルニアと言います。腸管が飛び出すことが多いことから、脱腸と呼ばれますが、実際には腹膜が袋状に突出し、その中に腸が入り込んでいる状態です。患者さんの約8~9割が男性で、50歳代以上の方が多いとされています。

鼠径ヘルニアの症状

多くは腹圧がかかるとき、立ち姿のときなどに鼠径部の皮膚の下が膨らみます。腫れ部分は柔らかく、指で押すと引っ込むほどです。痛みはとくに無いことが多いですが、足の付け根部分に違和感を覚えます。また、腸が出てくるなど症状が進むと痛みや不快感が現れるようになります。

鼠径ヘルニアの主な症状

鼠径部の膨らみ

鼠径部、すなわち足の付け根に腫れや膨らみが見られます。特に立ち上がったり、咳をしたり、重い物を持ち上げたりする際に目立ちます。この膨らみは通常、仰向けに寝ると引っ込みますが、活動時には再び現れることが多いです。

痛みや不快感

膨らみの部分には鈍い痛みや圧迫感が伴うことがあります。この痛みは、長時間立っていたり、激しい運動をしたりする際に悪化することがあります。また、痛みは軽度から中等度であることが多く、痛み止めで対処できる場合もありますが、慢性的になることもあります。

腸閉塞の症状

嵌頓(かんとん)を起こした場合、腸閉塞の症状が現れます。これには、激しい腹痛や吐き気、嘔吐が含まれます。腸閉塞は緊急の治療が必要な状態であり、放置すると腸が壊死し、生命に関わることがあります。嵌頓は突然発生することが多いため、鼠径ヘルニアを抱えている人は注意が必要です。

便秘や排尿困難

脱出した腸が通過障害を来たし、便秘が生じることがあります。特に、大きなヘルニアでは膀胱や直腸が圧迫されると排尿や排便に影響がでることがあります。

女性特有の症状

女性の場合、鼠径ヘルニアは卵巣や卵管が脱出することがあります。これにより、鼠径部の痛みが月経周期と関連して変動することがあるほか、月経痛が悪化することもあります。また、脱出した臓器が捻じれると、急激な痛みが発生することがあります。

その他の症状

立ち上がったり歩いたりすると、鼠径部に重い感じや引きつれた感覚が生じることがあります。この感覚は、特に長時間の立ち仕事や歩行時に強く感じられることが多いです。

鼠径ヘルニアの症状は、鼠径部の膨らみや痛み、不快感を伴い、症状が悪化すると緊急の治療が必要になることがあります。特に嵌頓が起こると腸閉塞を引き起こし、生命に関わるリスクが高まります。そのため、早期に医療機関で診察を受け、適切な治療を受けることが重要です。日常生活でこれらの症状を感じた場合は、速やかに医師に相談し、早期の診断と治療を心がけることが健康維持の鍵となります。

鼠径ヘルニアを放置していると

鼠径ヘルニアは、痛みがあまりないので軽視されがちですが、腸閉塞や腸の壊死を引き起こす恐れがあるため注意が必要です。ヘルニアによって腸が飛び出し、飛び出した腸の根本が締め付けられて戻らなくなる嵌頓を引き起こし、血流が阻害され腸閉塞や腸の壊死が起こることがあります。痛みが出てくるようになったら嵌頓の可能性があるので、早めに受診してください。

嵌頓のリスク

嵌頓(かんとん)とは、腸などの臓器がヘルニア部分に詰まって戻らなくなり、血流が遮断されることをいいます。嵌頓を起こすと、激しい痛み・腸閉塞・腸の壊死・腹膜炎などが症状として現れます。嵌頓を起こすと緊急手術が必要となり、場合によっては腸の切除も行われる可能性があります。

腹膜炎の危険

鼠径ヘルニア嵌頓を放置すると血流が遮断され、腸が壊死し、腹膜炎を引き起こす可能性があります。腸が壊死を引き起こすことで、最悪の場合命に関わる深刻な状態に陥る可能性もあります。

緊急手術のリスク

嵌頓(かんとん)や腹膜炎が発生するとリスクが高い緊急手術が必要になる場合があります。緊急手術は、合併症の発生率が高く、患者への負担も大きい手術となります。そのため、緊急手術となる前に、鼠径ヘルニアの早期の診察と計画的な治療が推奨されます。

腸閉塞や便秘のリスク

鼠径ヘルニアを放置することで、脱出した腸が物理的に圧迫され、消化液の流れが滞ると言われています。それにより、腸閉塞や便秘が発生すると共に、腹痛や嘔吐も発生することがあります。

長期的な健康への影響

鼠径ヘルニアを放置することで、腸の損傷が長期的な健康に悪影響を及ぼすことが知られています。慢性的な痛みだけではなく、様々な消化器症状(便秘や腹痛など)の問題が生じてしまいます。それにより、生活の質が低下し、日常生活における不快感や痛み、活動制限が生じる場合もございます。

鼠径ヘルニアの種類

外鼠径ヘルニア

鼠径ヘルニアのなかで一番多いタイプが外鼠径ヘルニアです。鼠径靭帯の上に外側から現れ、乳幼児期の男児や壮年期以降の男性に多いとされています。

内鼠径ヘルニア

中高年男性に多く、筋力が衰えるなど加齢が原因となって発症し、中年以降の男性、特に肥満気味の人がなりやすいとされています。鼠径靭帯の上に内側から現れるヘルニアです。

 

大腿ヘルニア

出産経験のある中年以上の女性に発症しやすいヘルニアで、鼠径部よりも下部に現れるヘルニアです。

鼠径ヘルニアになりやすい方

ヘルニアは先天性と後天性に分けられます。先天性ヘルニアは字の通り生まれつきで、後天性ヘルニアは、生活習慣やライフスタイル、加齢による筋力の衰え、妊娠・出産・病気などが原因で発症します。長時間の立ち仕事や重いものを持ち上げる職業の方に多いとされています。腹圧がかかると鼠径ヘルニアになりやすく、立ち仕事や力仕事に加えて、便秘や肥満、前立腺肥大、咳が多い疾患の方などは発症リスクが高いと言われています。女性は、妊娠や出産がきっかけとなり発症する場合があるほか、喫煙も発症や術後の再発リスクを高めるとされています。

この記事の監修者

和田雅世理事長の和田雅世(わだまさよ)です。

私は昭和55年日本医科大学医学部卒業後研修を終え、国立横須賀病院、大倉山病院、日本医科大学付属多摩永山病院外科医局長を経て平成13年1月町田胃腸病院副院長に就任致しました。 主に午前は外来診療、午後は手術を中心として携わっております。その一方で日本外科学会外科専門医制度関連施設の指定を受け、 大学病院より派遣された研修医の指導も行っております。当院は昭和48年設立当初より地域の皆様に急性期を中心とした医療を提供しておりますが、これからも「ホスピタルの原点であるホスピタリティの心で医療を行う。」 という当院の理念を継承し、より良い医療、技術の向上を目指して参ります。 さらに患者さまの視点に立ち、全人的医療を提供することができるよう、医師、看護師はもとより全ての医療スタッフが共に連携した 「チーム医療」を積極的に実践してまいります。
これまで以上に地域の皆さまのご理解、ご支援をお願いいたします。

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