「痔があるけれど、手術なんて怖くて考えられない」 「市販薬を使っているけれど、なかなか治らない・・・」
このように、治療をためらったり、ご自身の判断で様子を見続けていたりしませんか?まず「痔=すぐに手術」ではありません。 実は、痔の患者さんの約7割~8割は、手術をせずに生活習慣の改善や薬(保存的治療)だけで症状が治まっています。しかし、中には「薬では治せない痔」や「これ以上放置すると危険な痔」も確実に存在します。 その境界線はどこにあるのでしょうか?
このページでは、専門医が考える「手術した方がいい痔」の具体的なサインと、その見極め方について分かりやすく解説します。
そもそも、痔の手術が必要になるのはどんな時?
「手術」と聞くと、医師が「これは手術です!」と一方的に決めるものだと思っていませんか? 実は、痔ろう(あな痔)などの例外を除き、手術をするかどうかを決める最大の基準は、「患者さんご自身が、今の症状でどれくらい困っているか」です。
基本原則:「生活に支障があるか」が最大の基準
私たちは、痔の大きさや形だけで手術を決めることはありません。最も大切にしているのは、「生活の質(QOL)」です。たとえ診察で大きめの痔核(いぼ痔)が見つかったとしても、痛みもなく、出血もたまにしかなく、ご本人が日常生活で特に不便を感じていないのであれば、今すぐに無理をして手術をする必要はありません。お薬で様子を見ることも立派な選択肢です。逆に、痔核自体はそれほど大きくなくても、以下のように生活に悪影響が出ている場合は、手術を前向きに検討するタイミングと言えます。
- 仕事や家事に集中できない(痛みや違和感が常に気になる)
- 外出や旅行が怖い(出先で出血したり、痔が出たりするのが不安)
- トイレの時間が苦痛(毎回、痛みに怯えたり、指で押し込む手間がかかる)
- 貧血気味で体調が優れない(出血が続いている)
つまり、「痔を治すこと」だけが目的ではなく、「痔によって制限されてしまった、あなたらしい快適な生活を取り戻すこと」が手術の目的なのです。
医学的な基準:薬では治らない場合
生活への支障に加え、医学的な視点から「これ以上、お薬(保存的治療)を続けても改善は見込めない」と判断されるケースがあります。 それはシンプルに言うと、「形や構造が変わってしまっている場合」です。
- 保存的治療(薬や生活改善)を行っても症状が良くならない、または繰り返す場合
- 構造的な問題があり、物理的に修復しないと治らない場合
お薬を使って一時的に炎症が治まっても、やめるとすぐに腫れたり痛んだりする場合、それは根本的な解決になっていないサインです。この「再発の繰り返し」を断ち切るために、手術が有効な手段となります。
痔が進行すると、お薬の力だけではどうにもならない「物理的な変化」が起こります。
脱出(いぼ痔):肛門を支える組織が緩みきってしまい、外に飛び出している。
狭窄(切れ痔):傷が治る過程で皮膚が硬くなり、肛門自体が狭くなっている。
トンネル(痔ろう):膿の通り道ができてしまっている。
これらは、飲み薬や軟膏では元に戻すことができません。伸びきったゴムが戻らないのと同じで、外科的な処置(手術や注射)で物理的に修復する必要があります。
タイプ別チェック:「手術を検討すべき」サイン
「いぼ痔」「切れ痔」「痔ろう」、それぞれのタイプで「この症状が出たら手術を検討すべき」という具体的なサインがあります。
いぼ痔(内痔核・外痔核)の場合
いぼ痔で手術を検討する最大の目安は、「脱出(いぼが外に出る)」の程度です。 排便のたびにいぼが肛門の外に出てしまい、指で押し込まないと戻らない状態(進行度Ⅲ度)や、押し込んでもすぐに出てきてしまう状態(Ⅳ度)になっている場合は、手術の良い適応となります。ここまで進行すると、肛門を支える組織自体が緩んでしまっているため、薬でいぼを小さくすることはできても、脱出そのものを止めることは難しくなるからです。また、排便時だけでなく、歩いたり、咳やくしゃみをしたりするだけで簡単に出てきてしまう場合も、日常生活に大きな支障があるため手術が推奨されます。さらに、たとえ脱出がなくても「出血」には注意が必要です。痛みはなくても排便のたびにポタポタと出血し、健康診断で「貧血」を指摘されたり、立ちくらみがしたりするほどの出血がある場合は、お体への影響を考え、早急な治療(手術やジオン注射)が必要です。
切れ痔(裂肛)の場合
切れ痔は初期であれば薬で治りやすい痔ですが、繰り返すことで傷が深くなり、「慢性化」して肛門の形が変わってしまうと手術が必要になります。まず、痛みの時間が判断基準になります。排便の瞬間だけでなく、その後も数時間〜半日ほど「ジンジン」とした痛みが続く場合は、傷が深く、肛門の筋肉(括約筋)が過度に緊張して痙攣している可能性があるため、手術を検討する段階と言えます。また、切れ痔を繰り返すと、傷が治る過程で皮膚が引きつれて硬くなり、肛門自体が狭くなってしまう(肛門狭窄)ことがあります。「便が細くなった」「強くいきまないと出ない」という状態になった場合は、お薬では広げることができないため、肛門を広げる手術が必要です。 その他、慢性化に伴って肛門の外側に皮膚のたるみ(見張りイボ)や、内側にポリープができてしまい、これらが邪魔をして傷の治りを妨げている場合も切除を検討します。
よくある質問
「手術が必要」と診断されたら、すぐに受けなければいけませんか?
いいえ、痔ろう(あな痔)や激しい出血がある場合を除き、緊急性はありません。 医師が「手術適応」とお伝えするのは、「手術をすれば快適な生活に戻れますよ」という提案です。 仕事のスケジュールやご家庭の事情に合わせて、患者さんご自身のタイミングで決めていただいて構いません。「今すぐは無理だけど、長期休暇のタイミングで」といったご相談も可能です。
手術をしたくないので、ずっと薬を使い続けてはいけませんか?
生活に支障がなければ、お薬で付き合っていくことも一つの選択肢です。 ただし、脱出(いぼが出る)がひどい場合や、肛門が狭くなっている場合は、お薬の効果には限界があります。 漫然とお薬を使い続けても、症状が徐々に悪化してしまったり、いざ手術を決意した時には大掛かりな手術が必要になってしまったりするリスクもあります。 「現状維持でいいのか」「根本的に治したいのか」、医師と相談しながら方針を決めていきましょう。
「切らない治療」ができるケースはありますか?
はい、いぼ痔(内痔核)であれば、注射による治療が可能です。 当院では、メスで切らずに注射でいぼを固めて治す「ジオン注射(ALTA療法)」を行っています。 「脱出するいぼ痔」に高い効果があり、切除手術に比べて痛みも少なく、日帰りで治療が可能です。 (※外痔核や切れ痔、痔ろうには適応されません。)
手術は痛いですか? 何日くらい仕事を休めばいいですか?
手術中は麻酔が効いているため、痛みはありません。 術後の痛みについても、痛み止めのお薬でコントロールできる範囲内であることがほとんどです。 お仕事への復帰は、手術の内容や職種にもよりますが、日帰り手術であれば翌日や翌々日からデスクワークに復帰される方もいらっしゃいます。 力仕事などの場合は、1週間程度お休みされることをお勧めする場合もあります。



